決壊 ~祖父が見た満州の夢~

  • 6 年前
民教協スペシャル第32回 決壊 ~祖父が見た満州の夢~
過ちと向き合うことを恐れてはいけない

残された日記
戦争中、長野県の河野村(かわのむら)で村長を務めた胡桃澤 盛(くるみざわ もり)は、国策に従い、村人を満蒙開拓団として満州国へ送り出した。しかし、ソ連軍の侵攻で戦場と化した満州で、73人が集団自決。後に、盛は、罪の意識に苛まれ、42歳で自ら命を絶った。

孫の胡桃澤 伸(しん)(51)は、大勢の村人を死に追いやった祖父、自責の念に苦しみ自殺した祖父のことを、どう受け止めていいかわからずにいた。手がかりになるのは、10代の終わりから死の直前まで書いていた日記。青春時代は大正デモクラシーに触れ、自由主義に理想を求め、30代半ばで村長となり村のために奔走する日々の心情が、生々しく綴られている。家族のため、村のため、社会のために生きたい、常に正しくありたいと願っていた祖父は、気がつけば国のため、戦争遂行のために邁進していた。

決して忘れない
2017年の夏、日記を頼りに、祖父が一度だけ赴いた中国を訪ね、足跡を辿った。開拓団が入植した村では、当時を知る長老から話を聞くことができた。集団自決の地を訪ね、73人の名前を読み上げ、送り火を焚き、手を合わせた。戦後、悼む人もなく置き去りにされてきた人々に語りかける。祖父の代わりにはなれない自分が、今、慰霊する意味を見つめた。

苦しみの先に
国民の命をないがしろにした国の政策、個人を犠牲にしてまでも国全体の利益や一体感を優先させる思想、そこに与した祖父。戦後、その過ちと向き合おうとしたときの、苦しみの深さを思う。残された日記は、戦争を知らない自分たちに大切なことを伝えようとしていた。

出演
胡桃澤 伸(51歳)
胡桃澤 健(伸の父親/79歳)
蔡 忠和(中国・長春在住/88歳)

語り 吉岡 秀隆
1970年埼玉県生まれ
『遙かなる山の呼び声』(1980年)で、山田洋次監督に見出され、『男はつらいよ 浪花の恋の寅次郎』(1981年)以降のシリーズにレギュラー出演。
『ALWAYS 三丁目の夕日』三部作(2005年・07年・12年/山崎貴監督)に主演し、日本アカデミー賞最優秀主演男優賞を二度受賞(第29回、第31回)。
テレビドラマ「北の国から」シリーズ(1981年~2002年)、
「Dr.コトー診療所」シリーズ(2003年~06年)等に出演。
映画『こどもしょくどう』(日向寺太郎監督)が、2018年公開予定。

取材後記 ディレクター:手塚孝典(信越放送)

10年ほど前、初めて胡桃澤 盛の日記を手にした時の衝撃や感動を忘れることはできません。若い頃には、自由主義の風に触れ、社会の不条理や農民が置かれた苦境に心を寄せていた、聡明で慧眼を持つ盛が、なぜ、国策に与して、過ちを犯したのか。孫の伸さんと日記を読み進める取材のなかで、少しずつわかってきたことがありました。それは、「軍国主義の時代だったから」という一言で済ませてはいけないものです。敗戦後、そのことに最も苦しんだのが、盛自身ではなかったかと思います。正義とは、公正さとは、国家とは、人間とは、何か。取材を通して、戦争に留まらず、多くのことを考えました。これは、決して過去の戦争の話ではなく、現代の問題なのだと感じています。満蒙開拓を語ることは、私たちが、今の社会や政治、国のあり方と、どう向き合うのかを問うことであり、今回の番組制作を通して、その思いを強くしています。
http://www.minkyo.or.jp/01/2018/01/sp_32.html

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